冬うらら2

 車は、自宅に向かう。

 指輪には、日付とイニシャルを入れてくれるということなので、明日のお昼過ぎにでも取りにきてくださいということだった。

「私が…」と、メイは切り出したが、すぐにカイトに「オレが」と被せられ、受け取る権利を持っていかれてしまう。

 忙しいはずなのに。

 そのことを裏付けるかのように、カイトのケイタイが鳴った。

 運転中は―― などというマナーもなく、カイトはぱっと取ると、「ああ」とか、「すぐ戻る」とかそういうことを言うのだ。

 きっと、メイを家まで送り届けたら、また会社に戻る気なのである。

 本当に、わざわざ指輪のために会社を出てきたようだ。

 はぁ。

 そんな電話を横に、メイはため息をついた。

 カイトと一緒にいると、高低差の激しいジェットコースターに乗せられているような気分だった。

 喜んでいいのか落ち込んでいいのか、分からなくなる。

 一瞬ごとに、気持ちが激しく揺さぶられるからだ。

「指輪…したくない?」

 電話を切ったカイトに、ぽつりと彼女は言った。

 その言葉の真ん中には、本当は『私とお揃いの』というのが入っていたのだが、もしもそこまで具体的に言って、『そうだ』なんて言われたら立ち直れない。

 ぴくっと、ハンドルを握る指がそれに反応した。

 しばらくの沈黙の後。

「オレには…似合わねぇ」

 ぼそっと。

 そういう返事がきた。

 そんな!

 メイの心は、その答えに過剰反応する。

「そ、そんなことない! 絶対似合うわ!」

 カイトの指は、あんなに長いのだ。

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