冬うらら2
□24
 指輪なんか似合うもんか。

 午前2時。

 カイトは、ようやく家に帰り着いた。

 仕事でのトランスが抜け落ちると、雑多な記憶の洪水に悩まされる。

 その中の一つが、今日の大きな出来事の、『指輪事件』だった。

 何を血迷ったのか、メイは「似合う」と言い張った。

 信じられないことである。

 オレが指輪。

 ふっと、玄関先の明かりでちらと自分の指を見る―― 何をしてんだ、オレは。

 カイトは、ばっと乱暴に手を払う。

 お前の役割は、指輪を飾る台ではなく、このドアを正確に開けることなのだと教えてやらなければならなかった。

 モノには、分相応というものがあるのだ。

 毎日の仕事を、手は忘れていなかった。

「おかえりなさい!」

 一瞬、完全に手に意識を取られていた。

 だから、ドアの内側からそんな声が聞こえたのには、心底びっくりしたのだ。

 メイの声だ。

 ぱっと視線で探すと、彼女はパジャマで階段を駆け下りてくるところだった。

 寝てろっつっただろ!

 カイトの中でそんな音が弾けるけれども、言葉にはならなかった。

 メイが、本当に嬉しいという気持ちを山ほど込めて、いっぱいの笑顔を浮かべていたのである。

 そんな笑顔を見せられて、さっきよぎったセリフなんかを怒鳴ろうものなら。

 きっと一撃で、その笑顔を粉砕してしまうに違いなかった。

 笑顔を長く味わうためには、カイトの我慢が要求されたのである。

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