冬うらら2

 犬ころみてーに。

 全身から、「おかえりなさい!」を発されてしまうと、カイトだって悪い気はしない。

 もとい―― 内心、躍り上がっていた。

 こんなにまでも、自分が必要とされている。

 そんな風に受け止められたのだ。

 ガタッ。

 2歩踏み込んで、身体を抱き留める。

 メイが、こういうケースで自分から抱きついてくるワケがなかった。

 一歩手前で立ち止まって、「おかえりなさい」ともう一度言う気だったのだろう。

 だから、カイトは2歩踏み込んだ。

 彼女が完全に停止する前に、自分の胸の中におさめたのである。

 愛しさばかりの、胸の中に。

 戦場から生きて帰ってきた兵士は、妻がその間、いかに自分を思っていてくれたかを知るのである。

 こんな幸せなことはなかった。

 気持ちが、一気に溢れ返る。

 今日は、途中で一度出会ったというのに。

 それでも、こんな熱烈歓迎で出迎えてくれるのだ。

 平静でいられるはずがなかった。

「寝てろっつっただろ…」

 最初に考えたのよりは、2オクターブも低く静かな声で、それを言う。

 本当は言いたくなかったのだが、これで許可が下りたのだと勘違いされては困るからである。

 イヤに喜んでいる自分をも、もう片方の手で押さえつけた。

 メイを押さえる手の、100倍は強い力で。

『お前も、手放しで喜んでんじゃねー』と。

 自分の幸せばかりじゃなくて、彼女をもっと幸せにできるように努力をしろと、蹴り飛ばすのである。

「だって、またタヌキ寝入りになっちゃうから…それくらいならいっそ、最初に怒られた方がいいって思ったの」

 タヌキ。

 ポンポコリン。


 カイトは、昨日の夜の出来事を思い出して、うっと詰まる。

 失態日記の1ページが、カイトの足を引っかけようと狙っていた。

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