冬うらら2
●26
 手の中には、白いケース。

 カイトは、バスルームに行ってしまった。

 あ……。

 そのケースのフタを開けることもできずに、メイはその二つを交互に眺めた。

 しかし、バスルームの方のドアは、しばらく開く気配はない。

 渡し逃げされてしまったのだ。

 これって。

 ケースから推測するに、どう考えても指輪だった。

 カイトが帰ってきた時、最初すごく言いにくそうに戸惑っているのを見て、彼女は思ったのだ。

 きっと、仕事が忙しくて指輪を取りに行くヒマがなかったのだろう、と。

 それをどうやって、メイに言い出そうかと算段しているのだと。

 謝られたくなかった。

 指輪は、今日明日で腐るものではないし、カイトの仕事が忙しいのは、寂しいけれども理解したいと思っていた。

 たかが1日、指輪が遅れたくらいで、彼に謝って欲しくなかったのである。

 だから彼女は、すぐに話を夕食に切り替えたのだ。

 指輪の「ゆ」の字も素振りにださなければ、きっとカイトも彼女が気にしていないということに気づいてくれる―― そう考えた。

 夕食の時も、黙っているとそっちに話が流れてしまうとも限らないと思い、一生懸命おしゃべりをした。

 本当は、一人だけべらべらしゃべるなんて、メイだって恥ずかしいのだ。

 結婚式に関する話題も、一切避けた。

 そんな風に、彼女は頑張ったのだ。

 そして。

 部屋に戻った時は、『これでもう大丈夫』と、ほっとしたのである。

 これからカイトはお風呂だし、お風呂から上がったら眠るだけだ。

 それで、今日は終わりだった。

 なのに。

 終わってしまう前に、てっきり存在しないと思っていた指輪が、空から降ってきたのである。

 カイトは、ちゃんと受け取りに行ってくれていたのだ。

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