冬うらら2

 でも、それならどうして、あんな風に玄関で戸惑ったりしたのだろうか。

 いつもならあるはずの、ぎゅーもなかったのに。

 *指輪を取ってきていたにも関わらず、戸惑った
 *渡す時も、さっきみたいに渡し逃げされてしまった。

 この二つの条件から推し量ると。

『カイトは、指輪を渡すことを戸惑っていた』

 そういうことになる。

 指輪のことは、昨日から分かっていたのも関わらず、何故彼は戸惑ったのか。

 メイは、翻訳がなかなか出来ずに、頭の中が「?」だらけになった。

 何度も最初から、時間をかけてゆっくり反芻しなおす。

 渡すのが―― イヤだったの?

 その考えは、自分で否定した。

 そんなことない、と。

 声を大きくして否定は出来なかったけれども、カイトはそんな人じゃないと、思えるようになってきたのだ。

 いままで、そんな不幸な考え方をいくつもしてしまったが、ことごとく彼は破壊してくれたではないか。

 彼を信じたかった。

 渡すのが―― テレくさかったの?

 次にその考えにたどりついた時、ぽっと胸の温度が上がった。

 そうだ。

 彼は、このテのことが苦手な人だったではないか。

 カイトが、笑顔で『指輪を受け取ってくれ』と切り出すとは、到底思えなかった。

 どう切り出していいか分からなかった、というのが一番しっくりくるような気がした。

『手ぇ出せ』なんて、まるで飴でもくれるかのような言葉で指輪をくれる人が、一体この世に何人いるだろうか。

 そう思うと、すごく嬉しくなった。

 いま、自分が正しい翻訳が出来たような気がしたのだ。

 幸せな翻訳。

 そして―― この嬉しさを、カイトにぶつけてみたかった。

 彼は苦手かもしれないけれども、「ありがとう」という言葉で。

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