冬うらら2

 ああ。

 ありがとうだけじゃ、到底足りない。

 こんなにまで、自分を幸せにする才能のある人間を、メイは他に知らなかった。

 愛しさが、尽きることなく溢れ出す。

 止まらない。

 カイトにとって運が悪かったのは、彼女がそんな気持ちでいっぱいの時に、お風呂から上がってきたことだった。

 彼女は、ずいぶん長い間指輪について、翻訳していたのである。

 メイの感謝の標的になるのは、間違いなかった。

 慌てて、ソファから立ち上がった。

 指輪のケースを持ったまま。

 思えば、まだ彼女はこのケースを開けてもいないのである。

 開けなくても、カイトの気持ちが苦しいほど詰まっているのが分かった。

 指輪が嬉しいんじゃない。

 指輪にこもった気持ちが嬉しいのだ。

 たたっと、彼に駆け寄る。

 そうして。

「あ…」

 言いかけた。

「『ありがとう』、はナシだ!」

 なのに、既に続く言葉を読んでいたかのように畳みかけられた。

 カイトは、何とひどいことを言うのか。

 こんなあふれ出す気持ちに、無理矢理フタをしろと言うのだ。

 そんなことをしたら、彼女の気持ちは行き場をなくし、ダムを決壊させてしまうようなコトになりかねないのに。

 そして。

 予定通り決壊した。

 メイは、『ありがとう』は言わずに、いっぱいの気持ちを、自分の両腕に込めたのだった。

 そう。

 お風呂上がりのカイトの身体を―― ぎゅっと抱きしめたのだった。

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