冬うらら2

 自分と同じ石鹸の香りを感じた。

 ああ、もう。

 好き。

 こんなに、好き。

 その気持ちに追われて抱きしめた時、少しだけカイトのぎゅっの意味に触れたような気がした。

 言葉を抑えると、身体が抑えられなくなるのだ。

 しゃべるということは、自分の衝動を制御する力があるようにさえ思えた。

 嬉しい時に「嬉しい」と言えば、それで相手には伝わる。

 好きな時に「好き」も一緒。

 でも、言葉に出来ない時に伝えようと思ったら、表情や態度で表すしかなかった。

 違う言葉の国に住む二人は、きっとそうやって思いを伝えるのだろう。

 しかし。

 カイトからのギュッはなかった。

 彼は、まるでただの樹木のように突っ立っているのである。

 その身体を、メイが勝手に抱きしめているだけ。

 現実に、ハッと我に返った。

 自分が、心の衝動に突き動かされていた事実に気づいたのだ。

 カイトが驚いて、硬直しても当たり前である。

 やだ。

 恥ずかしくなって、メイはぱっと離れた。

 余りの唐突な態度に、あきれられたりしていないかと思うと―― いや、それ以前に恥ずかしくてしょうがなくて、カイトの顔を見られなくなってしまう。

「ごめ……」

 わたわたと、いまの事実をナシにしようと彼女は努力したのに。

 いきなり弾けたように動き出したカイトに腕を掴まれた。

 気がついたら―― 胸の中にいた。


 痛いくらいの、ギュッだった。

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