冬うらら2
□27
 どう見ても、『ありがとう!』と言おうとしているのが明白な瞳が、駆け寄ってきた。

 その言葉を禁止すれば、少しは自分の心を安全圏に置けるとか、と思っていたのに。

 しかし、予想外の反応がきた。

 禁止された言葉も、ほかの言葉も、何も使わないで。

 彼女は、カイトの身体を抱きしめてきたのだ。

 腕が。

 メイの身体全体が。

 精一杯の大きな声で、カイトに嬉しい気持ちを投げつける。

 それを、いきなり無防備のまま叩きつけられたのだ。

 現実を把握できないまま、彼の魂は抜けそうになっていた。

 いま、メイがオレを。

 オレを。


 オレを、オレを、オレを!!!!


 しかし、把握できたらできたで、カーッと一気に全身に血が駆けめぐるのだ。

 意識が、端から暴発していきそうな熱量だった。

 同時に、奥底から衝動がわきあがってきて。

 ただデクノボウのように、抱きしめられっぱなしの現状なんか、耐えられなくなってしまったのだ。

 腕に指令を出して。

 メイを、いまやまさに抱きしめようとした時。

 ハッと、彼女が飛び退いてしまった。

 あぁ???

 もう半瞬後だったら、間違いなく彼の腕は動いていて―― しかし、そのタイミングだったら、スカッと空を切っていたかもしれない。

 その不意の喪失感に、何事かと彼女を見ると。

 わたわたと。

 どうやら、いま自分がやったことが、恥ずかしくてしょうがないというような慌てた態度で、視線をそらした。

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