冬うらら2

 この家の中で―― 唯一、彼女とひとつになることが許されているエリアが、すぐそこにあるのだ。

 『優しくしてやれ!』という、消えかけた理性の声が聞こえた。

 カイトは、ベッドの側で急停止した。

 理性がいなければ、彼女を乱暴にひっくり返していたかもしれない。

「寝るぞ…」

 押し殺した声を出す。

 これで。

 これで、全て彼女に伝わるはずだ。

 いま、カイトがどれほどメイに荒れ狂っているかが。

 拒まれるはずがない。

 ふかふかで上を歩くには安定の悪いエリアは、メイが絶対に『イヤ』だとは言わない場所なのだ。

 彼女と身体を触れ合わせてからというもの、『ただ眠る』だけだったベッドが、一瞬にして黄金郷になった。

 毎日、意識を眠りに奪われるのが、憎らしいくらいである。

「あ、待って…」

 拒まれるはずがない―― ハズだったのに。

 アクセルを、ブンブン吹かしているカイトのサイドブレーキを、彼女はギッと引いてしまったのだ。

 心の中で、カイトの車は激しくスピンした。

 峠だったら、いまごろガードレールを突き破って、綱無しバンジーだったに違いない。

 なっ。

 何でだ?

 驚いた目のまま、ばっと彼女の方を向く。

 何を、彼女は待てと言うのか。

 カイトに対して、こんな残酷なことはなかった。

 そんな彼の目の前に。

 白い。

「あ?」

 カイトは、間抜けな声になってしまった。

 慌てていま出た言葉をナシにしたくても、もう無理だ。

 既に、口から飛び出してしまったのだから。

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