冬うらら2

 しかし、メイの方は、声が間抜けであったことに神経を向けていないようだ。

 彼の目の前に、白いケースが差し出されたのだ。

 もう、その存在のことなど、すっかり忘れきってしまっていた。

 今更現れたせいで、あんな声が出てしまったのである。

「しても……いい?」

 恥ずかしそうに赤い顔をして、少し不安そうに聞かれた。

 どうやら、指輪のことらしい。

 はっと、彼女の左手を見る。

 まだそこには、指輪はなかった。

 ケースに入れたままにしているのだ。

 何故、許可を取られるのか分からなかった。

 彼女の指を飾るために買ったのだ。

 ケースに入れて眺めるためじゃない。

「あ…でも、式まで待った方がいいのかな…」

 指輪の、交換。

 ぽそっと付け加えられた言葉で、メイが何に遠慮しているのか分かった。

 式のどこかであるという、『指輪の交換』なる儀式の時まで、新しいまま取っておかなければならないかと考えたらしい。

 式なんざ!

 カイトは目をむいて、彼女からその白いケースを奪った。

 式なんざ、おまけだ!

 彼らは、既に結婚しているのである。

 だから、結婚指輪をしていい―― いや、していなければならないのだ。

 あんな恥ずかしい思いをしてまで、手に入れてきたというのに、あと1ヶ月、彼女の薬指を空っぽにしておく気は、カイトにはわずかもなかった。

 有無も言わさず、フタを開ける。

 うっ。

 一瞬、ひるんだ。

 ケースの中には、プラチナの指輪が二つ、仲むつまじく光っていたのである。

『愛』

『慈しみ』

 そんな額縁に入っていそうな言葉が、その小さな空間に圧縮して詰め込んであったのである。

 トラップつきの宝箱を、開けてしまった気分だった。

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