冬うらら2
●28
「手ぇ出せ!」

 本日、二度目のその言葉。

 でも、一度目とは違う意味に聞こえた。

 あっ。

 メイは、自分の身体がぱっと熱くなったのが分かった。

 カイトが持っているのは結婚指輪。

 サイズからして、彼女の分である。

 指輪+「手ぇ出せ!」=「そんな…」

 カイトに、指輪をはめてもらえるなんて。

 そんな日が来るなんて、彼女は夢にも思っていなかった。

 結婚指輪だ。

 ほかのファッションリングとは、何もかも違うのである。

 二人のためにする指輪を、カイトが―― いいのだろうか。

 いや、結婚したのだから、はめてもらうことに何の問題があるワケでもない。

 第一、したいと言い出したのは自分だった。

 自分がしたいというのもあったけれども、彼の指におさまっているのも見たかった。

 似合うとか似合わないとか、証明のためじゃない。

 二人で、同じものを一つだけ。

 その共有感というものを、味わいたかったのだ。

 左手を出す。

 どう出したらいいか分からないけれども、人が指輪をはめてもらう時は、きっとこんな感じ。

 メイは指先に力を入れすぎないようにして、手の甲を上にして彼に見せたのだ。

 ああ。

 これから、カイトの指が彼女の手に触れるのだ。

 それを想像するだけで、恥ずかしさに逃げたくなる衝動を、押さえ込まなければならなかった。

 こんなに都合のいい夢が。

 あるわけない。

 短い期間に100万回は、メイはそう思った。

 いまでも心のどこかが、夢から醒めるかもしれないと怯えている。

 だが、彼に触れられる感触は、『全部現実かもしれない』と思わせてくれる魔法があった。

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