冬うらら2

 が。

 すごい勢いが、彼女の手を途中から後ろに引かせなかった。

 その動きは、まるで巣穴から飛び出しエサを取るアナゴのようだった。

 がしっと。

 カイトが、引きかけた手を捕まえ、引き戻したのである。

「目ぇ…つぶれ」

 決死の覚悟、というような声が降る。

 そして、同時に翻訳も完了した。

『指輪をはめてやる』と。

 その途中経過を、メイに見られたくなかったのだろう。

 何故、それをイヤだと思うのか、彼女にはよく分からなかった。

 ただ、誰かの視線の下で『優しいこと』や『愛情あふれること』をするのが、何より苦手のようだった。

 ああ、そうか。

 また少し、彼のことが分かった。

 思いが通じる前のカイトも、優しい人だと思われるのをイヤがっていたではないか。

 感謝しようとする度に、怒鳴られたりした。

 でも、それくらいでは彼の優しさを、隠すことは出来なかったけれども。

 左手を掴まれたまま、彼女はそっと目を閉じた。

 少し待った後。

 緊張した指先が、薬指の先端に当たった。

 ドキン。

 ビクッとしてしまいそうなのを、ぐっとこらえる。

 その反応で、彼の優しさが逃げてしまわないように。

 彼の優しさは、人に慣れないヤマネコのようだから。

 金属の感触が、指に触れる。

 体温よりも低い温度のそれは、途中まですっと入った。

 見えないということが、想像力をかきたてる。

 あのカイトが、いま自分に指輪をはめようとしてくれているのだ。

 すごく見たいという衝動がわきあがるのを、グッとこらえた。

 ヤマネコが、逃げてしまいそうだったのだ。

 指の感触だけで、ネコの動きを知ろうとする。

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