冬うらら2

 あと少し。

 そんな位置で、指輪は一回止まった。

 そっと、という動きでは、入らない部分。

 ぐっと力をこめれば。

 3秒、4秒、5秒。

 じりじりとした空気だけが流れる。

「痛く…ねぇか?」

 その沈黙の後、カイトが心配そうに聞いてくる。

 カイトは―― 分からないのだ。

 その事実の方に、メイは驚いた。

 指輪というものが、どのくらいの感覚で指におさまっているかということを。

 指輪が、根本まですんなり入ってしまったら、同じ気軽さで落ちてしまうではないか。

 だから、このくらいの抵抗が正解なのに。

 男の人だから。

 そんな言葉で片づけてしまうより前に。

 彼が指輪をはめた相手の数が、分かったような気がしたのだ。

 誰にも。

 そんなことをしなかったのだ。

『痛くない』という意味もこめて、首をゆっくりと横に振った。

 ダメ、と自分に言う。

 そうでないと、嬉しさに涙があふれてきそうだったのだ。

 グッと。

 一番奥に、指輪がおさまった感触がした。

 カイトの手がゆっくりと離れて、そこで彼女は目を開けたのだった。

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