冬うらら2
□29
「もう一つは…私がカイトにはめてあげたいな…」

 メイが、そう言った時。

 カイトは、またも硬直してしまった。

 どうしてこう彼女が絡むことに、イチイチ不意打ちを食らってしまうのか。

 理解し難い乙女思考というものが、またしても大きく立ちはだかったような気がした。

 これがほかの女ならば、きっとその気持ちを理解したいとは思わなかっただろうし、小馬鹿にして終わりだっただろう。

 けれども、カイトにそう言ったのは、ほかの女ではなかった。

 メイなのだ。

 カイトは、自分には指輪は似合わないと思っている。

 たとえはめたとしても、周囲にそういう目で見られるのが腹が立つのだ。

 ソウマやハルコ。

 それに、社員たち。

 彼が指輪をはめるような人間だと思われたら、それだけで何故かナメられそうな気がしたのだ。

 人に、からかう隙を与えてしまうというか。

 なのに。

 彼女が、そうしたいというのだ。

 カイトのために、指輪をはめてあげたい、と。

 指輪なんかイヤだという気持ちが、身体の中で渦を巻く。

 モンスターのように荒れ狂って、地上のものをすべて破壊しようとした。


 あんぎゃー!!!!


 その破壊の大地に、メイと同じ姿をした天使が降りてきてしまったのだ。

 カイトは、マズイ漢方薬を口いっぱいに押し込められた顔で―― 左手を突き出さなければならなかったのである。

 無敵かと思えた破壊獣カイラは、あっさり天使に倒されてしまったのだ。

 不幸だったのは、即死ではなかったこと。

 即死できていれば、飛び交う自分のプライドその他に、苦しめられずに済んだというのに。

 天使は、残酷な慈悲深さを持っていたのだ。

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