冬うらら2

 第三は、ここまで納期に追いつめられたことがなかった。

 少なくとも、ハナが入社してからは。

 多少忙しくて、終電になったりする時はあるが、徹夜なんかしたことなかったのである。

 開発中で、室内清掃員が入れないのは分かっているが、それにしても汚い。

 昨夜のものなのか、大きなゴミ袋の中に、ほか弁のパックがたくさんつっこんである。

 缶コーヒーも、あちこちに無造作に積んであった。

「ああ、第三か…それじゃあ」

 やっと、マシな人が現れた。

 彼の顔は知っている。

 何しろ、この開発チームのチーフなのだから。

 この人の目に止まれば、チームに入ることも夢じゃない。

「おはようございます! 他ももうすぐ到着する予定です!」

 気を取り直して、元気な挨拶をもう一度。

 頭でも痛むのか、向こうの方で徹夜明けの社員が、こめかみを押さえている。

 ハナは、チーフから仕事の説明を受けた。

 内容は、デバッグだった。

 ありとあらゆる操作を網羅するように、同じシーンを繰り返しプレイする。

 そして、おかしなところを洗い出すのだ。

 根気と、精密な目を要求される。

 ぶっちゃけると、退屈な方の仕事だ。

 さすがに開発の内容を知らないハナに、いきなりプログラムを作らせろ、とかいうのは無理な話だった。

 ちぇっと、また彼女は心の中で不満を漏らした。

 そんな時。

 ガチャッとドアが開く。

 おっ。

 ちょうど、ドアの方に顔を向けていた彼女は、ちょっと視線を軌道修正するだけで、その人間の顔を見ることが出来た。

 ネクタイを、ぶら下げたまま。

 上着はすでに脱いでいて、そこらの椅子にぽんと引っかける。

 そして、彼が席に着くのだ。

 おおおおおおー!!!

 ついつい珍しくて、ハナは注目した。

 鋼南電気の、社長のご登場である。

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