冬うらら2

 会社内をウロウロしていたら、たまーにすれ違うことはあったが、こんなにゆっくりと眺められるのは珍しかった。

 彼が、この会社を一代で作ったのは、周知の事実だし。

 何より彼は―― 『コウノ』なのだ。

 コウノについて、半分くらいしか知らない。

 ただ今でも、ネット界で噂として聞くことがあるし、会社設立前のゲームもいくつかプレイしたことがあった。

 スーパー・マニアックなゲームを作る人だ。

 彼女が印象に残っているのは、これがパーフェクト・クリアできなければ、おまえはマニアじゃないというレッテルを貼られそうなシミュレーションだった。

 だから、ハナはそのゲームは3日間、寝食忘れて打ち込んだ。

 そんな彼に、気になる噂が二つあった。

 その一つ目は。

 いま、いろんなマニアのホームページでダウンロード出来る、伝説のソフトを作ったのが『コウノ』ではないか、というものだ。

 ネット上では、「作者不明」で掲載されているけれども。

 その噂を、ハナが聞いたのが1月1日ちょうど。

 元旦の夜明け前にチャット中だった彼女に、ほかのマニア仲間が言ったのだ。

 慌ててダウンロードしたそれは―― これまた、マニアックの限りを尽くした、しかもダークサイドなシミュレーションだったのである。

 おかげで、彼女の年始休暇は、すべてそれに奪われてしまったのだ。

 いまだ、彼女は完全攻略できていない。

 思い切り化け物をぶちのめして食わせていたら、自分の味方のユニットが、すべて彼女の指示命令を聞かずに、勝手に行動し始めてしまったのだ。

 かと言って、食わせないとなかなか強くならない。

 それに、ダメージを受けた味方ユニットの傷も治りが悪いのだ。

 本物の人間のように、腕が落ちたら片腕で戦わなければならないのである。

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