冬うらら2
□31
「あー!!!」

 寝不足の頭には、突き刺さるような絶叫だった。

 カイトは、のぞき込んでいたディスプレイに、そのまま思わず頭をぶつけてしまいそうになったが、何とか踏みとどまる。

 一体何事なのか。

 顰めた顔のまま、カイトはうろんに振り返った。

 声の主にも、心当たりがなかった。

 どう聞いても、女の声である。

 このチームに、女はいなかったような記憶があるのだが。

 振り返ると、ぎょっとする。

 何しろ、その女が彼の方に、すごい勢いで近づいてくるのだから。

 な、な、何だー???

 そのモーレツぶりに驚いていると。

「シャチョー! これ、結婚指輪? 結婚指輪ですか?? いつ結婚されたんですか???」

 その女は、いきなり彼女自身の左手を持ち上げて、薬指をせっかちに指した。

 チームのメンツが、その声に全員一斉に、カイトの左手に視線を集中させる。

「ああ、第三チームからの応援ですよ。名前は、えっと…」

 チーフが、その大騒ぎ娘の横からフォローを入れてきて、ようやく会社関係者であることが分かった。

 しかし、分かったからと言って、現状が改善されるワケではないのだが。

「ハナです! 一生懸命がんばります! 第一チームに入るのが夢です! よろしくお願いします…でも、それ結婚指輪ですよね?」

 マシンガンとは―― このことを言うのだろうか。

 紹介されたので、ついでに自己PRを付け足し、なおかつ最初の話題をも蒸し返す。

 このまま騒がれていては、みんなの興味もこの指輪からはがれないではないか。

 本人にしてみれば、この指輪のことは、誰にも知られたくないし、見られたくないというのに。

 見られたくないなら、はずしておけばいいのだが、苦しいことにそれも出来ないのだ。

 何しろ、この指輪はメイがはめてくれたのだから。

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