冬うらら2
◎32
 勝手知ったる他人の家。

 ハルコは、今日もいそいそとカイトとメイの愛の巣に、ミツバチのように現れた。

 ここに、一番甘いミツがあるということを知っているのだ。

 8の字ダンスでも、踊りたいくらいだった。

 最近、毎日が楽しくてしょうがない。

 おなかの子も、そんな気配を察しているのか、大変順調でご機嫌のようだった。

 しかし、そんな彼女の浮かれ具合とは逆に、家の中はシーンとしている。

 あら?

 玄関のところで、ハルコは怪訝に足を止める。

 不在なら、玄関にはカギがかかっているはずだ。

 開いていたということは、メイは家の中にいるに違いないのに。

 二階かしら?

 そう思いながらも、一応ダイニングの方を覗く。

 すると。

「あらあら…」

 ハルコは、にっこりと微笑んだ。

 メイはそこにいたのだが、椅子のところでうたた寝していた。

 コクッ、コクッと、頭が前に傾いで船をこいでいる。

 膝の上にあるのは、編みかけのセーターで―― このまま写真におさめたいくらいの、ベストショットだった。

 とても、幸せそうなうたた寝に見えたのだ。

 お茶でもいれようかしら。

 そうしているうちに、彼女が目覚めるだろうと思いかけたその時。

 ハルコの目は、見逃さなかった。

「まぁ……!」

 思わず飛び出した感嘆の声に、メイの身体がびくっとする。

 起こしてしまったようだ。

 しかし、その事実を詫びるより先に、ハルコの手は動いていた。

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