冬うらら2

「なにもかもが唐突でいきなりで、気づいたら…今日になってた、みたいな感じで…あ! あの、その…幸せじゃないとかそういうことじゃなくて…すごく、幸せなんですけど…まだ、やっぱり実感がなくて」

 こういう話は、カイトには出来ないに違いない。

 彼に話そうものなら、きっと怒鳴られてしまうだろうから。

 それを想像すると、ハルコはおかしくなった。

 カイトなら、彼女にどう『実感』とやらを持たせようと努力するのだろうか―― と想像してしまったせいだ。

 メイの不安も、もっともだと思った。

 これまで、カイトと積み重ねてきたものが、あまりに少ないのだ。

 きっと、まだお互いのことを、ほとんど知らないに違いない。

 ちゃんと、彼らは家で会話を交わしているのだろうか。

 今まで、そういうシーンというものを、ほとんど見たことがないような気がする。

 交わしているとするなら、どんな会話をだろうか。

 しかし、それをハルコたちが見ることは、難しいだろう。

 彼ら夫婦が現れると、カイトは臨戦態勢になるからだ。

 ソウマが、いつもからかうせいよ。

 自分を棚上げして、夫を軽く責める。

 確かに、カイトに分かるようにからかうのは、ソウマの方なのだ。

 まだハルコ相手の方が、彼も情状酌量してくれているような気がする。

「どうせカイト君のことだから、あなたが安心するほど、『好きだ!』とか言ってくれないんでしょう? 『おまえしかいねぇ!』とかも言ってなさそうねぇ」

 彼女の気持ちを持ち上げるように、ハルコはわざとカイトの口真似をした。

 勿論、そんなことを言ったのは聞いたことがないけれども、言うとしたらこんなカンジだろう、と。

「そっ、そんな!!」

 笑うかと思いきや、メイは真っ赤になって飛び上がった。

 滅相もない、というカンジだ。

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