冬うらら2
●33
 ハルコさんったら。

 夜。

 まだ帰ってこないカイトを待ちながら、彼女はセーターの続きを編んでいた。

 部屋は、一人では勿体ないくらいに暖かく、ソファはやわらかだ。

 そして、メイは今日の昼間を思い出しながら、ちょっと顔を赤らめてしまっていた。

 まさか、ハルコがカイトの口まねをするとは、思ってもみなかったのだ。

 声そのものが似ているワケではないのだが、付き合いが長いせいか、かなり口調が似ていて―― しかし、おかしいと笑うような内容ではなく、思わず彼女は飛び上がってしまった。

『私のこと…好き?』

 そんなことを、聞けと言ったのである。

 とんでもない話だった。

 そんなこと。

 わざわざ、口に出して聞かなくてもいいのではないだろうか。

 結婚したということは、そういう感情が大前提にあるということだし、指輪だって。

 メイは編み棒を止めて、そっと自分の左手に触れた。

 昨日、カイトがはめてくれたままの指輪が、そこにある。

 水仕事の時など、はずそうかとかなり悩んだのだが、結局はずせないままだった。

 せっかく、カイトがはめてくれたのに。

 あんなことは、もう二度とないような気がするので、どうしても勿体なくてはずせなかった。

 これが。

 多分、彼の気持ち。

 物に依存するワケではないが、あの彼が、自分の意思で買ってくれたものなのだ。

 それは、はっきりと今日の昼間に分かった。

 ハルコが、あんなにまで驚いていたのだ。

 ということは、彼女はカイトが指輪を買うということを、知らなかったのである。

 多分、ソウマも。

 そう思うと、ますます落ち着かない。

 彼が苦手な愛の形を、一生懸命表現しているような気がした。

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