冬うらら2
□34
 やたら、目に付く。

 本日のカイトは、気づいたら自分の左手に視線をやってしまっていた。

 感触に慣れていないせいか、見なくてもそこにあるのだと主張する指輪。

 目障りで落ち着かなくて―― そして、大事なものだ。

 これのせいで、今日は会社ではさんざんだった。

 ハナだかハヤだか、応援の女に煽られたせいで、開発室の連中の好奇の目にさらされたのだ。

 おかげで、社員に結婚したということがバレてしまった。

 その事実は、本当は自分たちだけが、知っていればいいことなのだ。

 カイトさえ、まだ結婚したという言葉を噛みしめきっていないというのに、無責任に祝おうと構える連中がいるのである。

 メイを、どんな思いと過程で、抱きしめるまでにいたったか。

 彼らには、絶対に分からないに違いない。

 それなのに、結果は全部一緒なのだ。

『おめでとー』

 軽くて軽くて、ふわふわで。

 くしゃみ一つで、吹っ飛んでしまいそうな祝福の言葉だった。

 そんな綿菓子を、カイトが笑顔でかじれるはずがない。

 パチャン。

 湯船の中で、今日の記憶をよみがえらせていたカイトは、水面から左手を持ち上げた。

 薬指の金属の縁にたまった湯は、カイトが軽く指先を動かすとするりとこぼれ落ちて、妙な屈折率ナシの綺麗な姿が現れた。

 似合わねぇ。

 その考えは、いまだ撤回されていない。

 ふーっと、長い息を吐いて。

 メイの左手を思い出した。

 彼女の指輪と自分の指輪で違うのは、本当はサイズだけなはずなのに、マネキンの指の、色とか太さとか長さとか、とにかく様々な条件が違うせいで、全然同じものに見えない。

 メイの指は、指輪がはまっていても何の問題もない指だった。

 それどころか、もう指輪のない時の方が想像できないくらい、自然に綺麗に、誰よりも―― だー!!!

 自分の脳では、処理できない系列のことを考えそうになって、カイトは振り払った。

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