冬うらら2
□42
 イライライライラ。

 メイのことを思って、ここまで我慢してやっているのだ。

 カイトは、膝の上で指先を震えさせるのを、ぐっと我慢した。

 昨日、きっちり電話で『結婚した』と伝えたというのに、父親は今更、その話から蒸し返すようなことを言い出すのである。

 挙げ句、母親のしゃべりときたら、どれもこれもカイトにとってロクなことにはならないのだ。

 結婚した=おめでとう、そりゃよかったな―― それで終わりでいいではないか。

 ありきたりの祝福の言葉は嫌いなカイトでも、その一言で十分、目的を達成して帰ることが出来るのである。

 なのに、グダグダとメイを値踏みするのだ。

 普通の親ならば、普通の現象であったとしても、カイトには耐えられない。

 この短気のせいで、親とはそれなりのトラブルを起こしたし、大学に入学してから一緒に住んでいないのだ。

 とっくに自分は、親離れをしているつもりだった。

 なのに、親という生き物は、どうしても懲りない。

 カイトのことは、永遠に自分たちの息子だと思っているらしく、いつでも自分のことを気にしているようにさえ思えた。

 いつだったか、ゲーム機本体はないくせに、カイトの会社が作ったゲームの箱が本棚に立ててあるのを見て、唖然とさえしたのだ。

 それが、父親の本棚だったからなおさら。

 フラリと、家に帰った時のことだった。

 それ以来、帰っていない。

 そういうものを見せられると、『いい加減にしろ!』と、怒鳴ってしまいそうな自分がいたからだ。

 親が思っているほど、自分は親のことを思っていないという自覚があった。

 だからこそ、彼らがカイトに向ける、無償の愛とやらにも、何をやっても結局許されているような感触とやらにも、絶対に慣れることは出来ないし、それに甘えることも出来ないのだ。

 自分では認めたくないが、一種『かなわない』とさえ思える何かが、親という存在にはあった。
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