冬うらら2

 カイトは、若い割には華々しく生きている。

 何度となく人生のバクチを打ったり、自分の才能でここまでやってきた。

 彼のこれまでの人生を振り返った時、その成功に何人の人間がこうなりたいと夢見るだろうか。

 なのに。

 全然、勝った気がしなかった。

 それが、悔しいのだ。

 それが、息子という生き物だった。

「信じられないわ」

 母親が言った。

 その声で、彼は現実世界に完全に足をつけたのだ。

「信じられない…カイト、こんないい子を、どこからかどわかしてきたの?」

 本当に、信じられない声だった。

 この分では、昨日の眠れなかったという夜の間、どんな女を想像していたのか分かったものではない。

 その辺で遊んでいる女に、手をつけたとでも思ったのだろうか。

 頭に来ること、この上ナシだ。

「そ、そんな! かどわかされたなんて…そんなことありません!」

 カイトが反論するより先に、メイは弾かれたように一生懸命な唇で、それを主張した。

 被害者だと思われていた存在が、被害を否定したのである。

 これで、カイトの疑いは晴れるかのように思えたのだが、ますますもって、母親は信じられないという顔をしたのだ。

「ところで…」

 コホンと、父親が言いにくそうに咳払いをする。

 その後で、母親の方をチラリと見やるのだ。

 何か言いたそうだが、どうにも言いにくそうな内容だった。

 母親の方は、一瞬分からないような顔をしたが―― 次の瞬間、はっと思い出したようで。

 今度は、二人してメイをまじまじと見る。

 何かケチでもつける気か。

 カイトが、心の中でガルガル言っていると、多分最初から役目が決まっていたかのように、母親が口火を切った。
< 205 / 633 >

この作品をシェア

pagetop