冬うらら2
●43
 帰りの車中。

 カイトは、むっつりと黙り込んだまま運転をしていた。

 どう考えても、今日の両親への紹介で、機嫌が悪くなったとしか思えない。

 メイは助手席から、心配してチラチラと見やった。

 彼女自身は、とても幸せで楽しい時間だった。

 カイトの両親は、想像していたほどの風変わりではない。

 それどころか、標準的と言ってもいいくらいだ。

 そして、とても優しかった。

 気に入られるかどうか心配していた彼女に、よい印象を抱いてくれたようにさえ思える。

 出前で寿司を頼んでいるから、それを食べるまでは帰さないと言う母親とカイトのやりとりは、メイに首を竦めさせたが、最後はついに母親の方が勝利した。

 すごいな、とつい感心してしまった。

 夕食の後、カイトがしびれを切らして帰ろうとした時も、何度となく『もうちょっとゆっくりしていきなさい』と引き留めてくれたのだ。

 しかし、彼はもう耳を貸さなかった。

 お別れの挨拶も半分くらいで、メイを引っ張って連れ去ってしまったのだ。

 そして、今に至る。

 どうしてこんなに不機嫌なのだろうか。

 いたって健全そうな親子関係に見えたけれども、彼女の知らない何か深くて大きな理由があるのかと心配になってしまう。

「カイト…」

 あんまり彼が黙り込むものだから、ついにメイは声をかけた。

 ただのだんまりならいつものことなのだが、彼が怒っているように思える。

 何かに怒っているために、助手席に彼女がいることさえ忘れてしまっているようにも思えて―― それが不安だった。

 どうかしたの?

 そう聞きたかったのだけれども、彼の母親のようになめらかな舌と、強い心臓を用意できなくて、ただメイは息を飲んだ。
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