冬うらら2

 メイが、お風呂から上がって出てくると、カイトはコンピュータに向かっていた。

 忙しい仕事が、また彼を襲っているのである。

 休みも夜も、カイトを自由にしようとはしないのだ。

 今日は、ほとんど両親への挨拶で時間がつぶれてしまったので、これからそれを取り返す気なのだろうか。

 先にお風呂を済ませていたカイトだったが、彼女が出てきたのに気づかなかったようだ。

 ソファに座った音か、目の端で動いた影か―― いずれかで、彼はハッと視線を投げたのである。

 気にしないでくれてもよかったのだが、やはり同じ空間にほかの人がいると気が散るのだろうか。

「お茶でもいれて…」

 そう切り出しかける。

 ゆっくりお茶を入れてくれば、その間カイトが集中出来るのではないかと思ったのだ。

「いい!」

 しかし、最後まで言う前に、カイトの言葉に叩きつぶされてしまう。

 彼女は、唇を泳がせるハメになった。

 集中をとぎれさせないように仕事をしてもらうには、もうメイは眠った方がいいのかもしれない。

 その方が、きっと邪魔にならないだろう。

 少ししょげながら、彼女はソファから立ち上がるとベッドの方に向かった。

 歩きながら、言葉を考える。

『おやすみなさい』だけだと、カイトにだけ仕事をさせて、のうのうと惰眠を貪るように聞こえてしまうかもしれない。

『がんばってね』だと、眠らずに仕事しろと言ってるように聞こえてしまうかも。

『私が起きているとうるさいでしょ』だと、何となく卑屈だし、逆にイヤミに聞こえそうだし。

 結局、ベッドのそばに到着しても、彼女は言葉を探せなかった。

 振り返ると。

 ディスプレイの画面が、真っ暗になっていた。
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