冬うらら2
□44
 ちぎれ飛ぶ寸前で、カイトは恐ろしい家を脱出した。

 自分の実家でのことである。

 恐怖とか、そういうものではない。

 それはもう。

 どこに出しても恥ずかしくない。

 純粋な―― 嫉妬だった。

 両親が、メイを可愛がってくれるのは分かっていた。

 無茶ばかりやっているカイトを、育ててきた人間たちである。

 それはもう、彼女が天使に見えるに違いなかった。

 見るからに可愛がっているのが分かり始め、それがどんどん深くなっていくのが分かってくると。

 いくら両親とは言え、それ以上深くなられるのが、耐えられなくなったのだ。

 メイが、いかに可愛いかなどは、自分一人が知っていればいいことだった。

 それを、誰にも見せびらかしたいワケではない。

 両親が、彼女という存在に心を掴まれてしまったことを知るや、カイトは自分の中にあった不安というものが形になったような気がした。

 世の中にいる他の連中も、同じように心を掴まれるかもしれないと思ったのだ。

 そして、それが男だった日には。

 メイが、他の男に触れられたり、あるいは想像の上だけでも辱められたりするかもしれないのだ。

 耐えられなかった。

 心が狭いと、万人に責められようとも、カイトはそれがイヤだったのだ。

「カイト…」

 帰りの運転中、カイトがそんな風に嫉妬に狂っていた時。

 助手席から、声がかかってハッとする。

 チラと視線だけを投げると、彼女の目が『どうかしたの?』と聞いていた。

 その、自分だけに向けられる眼差し。

「おめーは……」

 おめーは、オレのもんだ!

 心の中でその言葉が渦巻く。

 しかし、余りに大きくて熱いカタマリであったので、喉で詰まって唇まで出てくることはなかった。
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