冬うらら2

 そんな気持ちを振り払えずに、カイトはコンピュータに向かった。

 メイは、彼の後に風呂に入っている。

 振り払うには、頭の中が空っぽになるくらい、熱く彼女を抱きしめていればいいのだ。

 きっとそうすれば、奴らが退却するのをカイトは知っていた。

 しかし。

 今はただ、抱きしめるしか出来ない。

 勿論、メイの事情は分かっていたが、それが彼の心を軽くする材料にはならないのだ。

 せめて、彼女の体温を身体中に感じるくらい、強く抱え込んで眠れば、少しは減るんじゃないかと思った。

 今はまだ、カイトは一人だ。

 メイが、風呂から出てくるまで待たなければならない。

 その時間を、仕事に打ち込んで―― 別の意味で、頭の中を空っぽにしようとした。

 計画は成功した。

 ハッと気づいたら、メイがソファに座るところだったのだ。

 お茶とか何とか言い出したが、すぐに拒否した。

 拒否しながら、カイトは仕事を中断すべく、終了作業に入り始めていた。

 彼女が、ベッドに向かい始める時には、すでに電源を切る処理に入っていて。

 全部終わって振り返ると、驚いた顔がこっちを見ていた。

 何に驚いているのか分からなかったが、彼女の視線を避け、ベッドに向かった。

 風呂上がりの彼女を見た時から、身体の中ではっきりと飢えが生まれたのを知った。

 強く抱きしめて眠ろうと思っている心があるのに、もっと熱くて暴れるオオカミが、山を降りてきてしまったのである。

 彼は、羊になってメイを抱きしめなければならないのに。

 先にカイトがベッドに。

 すぐ後に、彼女が隣に潜り込んできた。

 電気を消す。

 静かになった。
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