冬うらら2
□
オオカミは、まだウロウロしている。
羊のカイトを、食おうと言うのか。
そんな彼の心も知らずに。
「今日は、すごく嬉しかった…ありがとう」
暗闇の中で、メイは今日の記憶をよみがえらせているのだ。
素直な言葉も、いまのカイトには針と同じだった。
オオカミが、見ている。
「『可愛い』…って、お世辞でも言ってもらえて嬉しかった。ホッとしちゃった」
グォァオー!
咆哮が響いて、オオカミが木々の陰に駆け込む。
オオカミの代わりに、トラが出てきたのだ。
トラの名前は―― 嫉妬。
彼女を強く抱きしめるのは、『オレのものだ』を、そのオレとやらに実感させるため。
『可愛い』なんて言葉くらいで、嬉しいなんて。
カイトの中で、トラが暴れる。
他の誰よりも、カイトが強く思っている言葉だ。
そんな彼の気持ちに、ほかの誰もかなうはずがなかった。
なのに、うまく伝えられない。
彼女を『可愛い』という言葉で、幸せにしてやれていないのだ。
嵐のように、言葉が荒れ狂う。
あまりにすごい勢いで飛びすぎて、唇が捕まえきれないのだ。
彼女の身体を引き寄せて、ぎゅっと抱く。
「オレの方が…!」
オレの方が。
オレの方がもっと。
メイのことを思ってるし、価値を知っているし、可愛いとも思っている。
こんな女は、ほかにはいねぇと―― 言葉は、嵐の中の看板のように飛んでいってしまった。
トラが去った後には、またオオカミと羊のにらみ合いが続いて。
カイトは、眠れぬ夜を過ごした。
オオカミは、まだウロウロしている。
羊のカイトを、食おうと言うのか。
そんな彼の心も知らずに。
「今日は、すごく嬉しかった…ありがとう」
暗闇の中で、メイは今日の記憶をよみがえらせているのだ。
素直な言葉も、いまのカイトには針と同じだった。
オオカミが、見ている。
「『可愛い』…って、お世辞でも言ってもらえて嬉しかった。ホッとしちゃった」
グォァオー!
咆哮が響いて、オオカミが木々の陰に駆け込む。
オオカミの代わりに、トラが出てきたのだ。
トラの名前は―― 嫉妬。
彼女を強く抱きしめるのは、『オレのものだ』を、そのオレとやらに実感させるため。
『可愛い』なんて言葉くらいで、嬉しいなんて。
カイトの中で、トラが暴れる。
他の誰よりも、カイトが強く思っている言葉だ。
そんな彼の気持ちに、ほかの誰もかなうはずがなかった。
なのに、うまく伝えられない。
彼女を『可愛い』という言葉で、幸せにしてやれていないのだ。
嵐のように、言葉が荒れ狂う。
あまりにすごい勢いで飛びすぎて、唇が捕まえきれないのだ。
彼女の身体を引き寄せて、ぎゅっと抱く。
「オレの方が…!」
オレの方が。
オレの方がもっと。
メイのことを思ってるし、価値を知っているし、可愛いとも思っている。
こんな女は、ほかにはいねぇと―― 言葉は、嵐の中の看板のように飛んでいってしまった。
トラが去った後には、またオオカミと羊のにらみ合いが続いて。
カイトは、眠れぬ夜を過ごした。