冬うらら2

 それなのに。

 封印が破れて、ちらりとメイの表情が、頭の中に閃いた瞬間。

 弟は、過剰反応した。

 その女がイイと言い、その女以外はイヤだと主張したのだ。

 しかし、彼女は兄のフィアンセだった、というオチである。

 薄布の向こう側の存在にしておいたのに、悪戯な風が布をめくってしまった。

 それに、弟は目を見開いたのだ。

 一瞬にして焼き付いて、忘れられなくなってしまったのである。

 兄としては、絶対にそれを叶えさせるワケにはいかなかった。

 そんな激しい葛藤が―― たった一分の間に、狭い個室の中を巡ったのである。

 そして、カイトは個室を飛び出した。

 あれ以上、あの空間にいたら、それこそ二度と彼女と、顔を合わせられないような気がしたのである。

 しかし、手遅れだった。

 ようやくメイが風呂から上がって来た時、あまりの後ろめたさに、彼女の方を見られなくなっていたのだ。

 コンピュータで仕事に熱中しているフリをしているが、内心では胸が痛んでしょうがなかった。

 オレは、こいつを。

 そんな目で見ているワケではないと、何度となく自分に言い聞かせた。

 しかし、もう理性だけでは追いつかないのだ。

 一度、弟に彼女の顔を見られてしまったのだから。

 たとえ兄の命を奪っても、自分のものにしようと思っている存在がいる限り、メイに触れたくても触れられない。

 彼女が好いてくれているのは、おそらく兄の方だ。

 弟ではないのだ。

 兄を惨殺して手に入れたとしても、メイは怯え悲しみ軽蔑し、弟の存在をイヤだと思うだろう。

 このように、カイトの頭の中では、どこかの王家の骨肉の争い状態が展開してしまったのだ。
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