冬うらら2
□
なのに。
布団は、そこはかとなくメイの香りを残し―― 逆に、ギンギンに目が冴えてしまったのだ。
ヤバイ。
弟の軍に追いつめられているのが、如実に分かる。
あの小高い丘の向こうに、大群が迫っているような気配さえ感じられるのだ。
眠りという逃亡さえ出来れば、全滅させられることはない。
だから、自分に早く寝ろ、と。
そう命令をすればするほど時間が過ぎ、心臓の鼓動が速くなる。
バクンバクンと、自分の耳に聞こえるくらいの音量になってしまった。
これで眠れるはずがない。
そして、最悪は続いた。
ついに。
メイが、風呂場から出てきてしまったのだ。
ドアの開く音、閉まる音。
歩く音。
彼女の気配。
息づかい。
毛布をひっかぶったままのカイトは、いつも以上に研ぎ澄まされた感覚で、はっきりとそれを感じていたのである。
これではまるで、お婆さんのところにお使いに来た、『赤ずきん』を食べるためにベッドに潜む、オオカミのようではないか。
そうして、赤ずきんは聞くのだ。
「カイト…もう寝ちゃった?」
その声が何気ないものであったら、カイトはきっとこれ幸いとタヌキ寝入りをしただろう。
そういう逃げ方もあったのだ。
しかし、メイの声は、置いて行かれた動物みたいだった。
それが、一瞬にして彼の心をかき乱す。
なのに。
布団は、そこはかとなくメイの香りを残し―― 逆に、ギンギンに目が冴えてしまったのだ。
ヤバイ。
弟の軍に追いつめられているのが、如実に分かる。
あの小高い丘の向こうに、大群が迫っているような気配さえ感じられるのだ。
眠りという逃亡さえ出来れば、全滅させられることはない。
だから、自分に早く寝ろ、と。
そう命令をすればするほど時間が過ぎ、心臓の鼓動が速くなる。
バクンバクンと、自分の耳に聞こえるくらいの音量になってしまった。
これで眠れるはずがない。
そして、最悪は続いた。
ついに。
メイが、風呂場から出てきてしまったのだ。
ドアの開く音、閉まる音。
歩く音。
彼女の気配。
息づかい。
毛布をひっかぶったままのカイトは、いつも以上に研ぎ澄まされた感覚で、はっきりとそれを感じていたのである。
これではまるで、お婆さんのところにお使いに来た、『赤ずきん』を食べるためにベッドに潜む、オオカミのようではないか。
そうして、赤ずきんは聞くのだ。
「カイト…もう寝ちゃった?」
その声が何気ないものであったら、カイトはきっとこれ幸いとタヌキ寝入りをしただろう。
そういう逃げ方もあったのだ。
しかし、メイの声は、置いて行かれた動物みたいだった。
それが、一瞬にして彼の心をかき乱す。