冬うらら2
●50
 目が―― 合わない。

 お風呂場で頭を洗いながら、メイは寂しさの神様のマントの中に抱え込まれていた。

 目が、合わない。

 言葉を交わそうとしてくれない。

 ぎゅっと、抱きしめてくれない。

 上の空みたい。

 私と。

 私と、いても。

 ズーン。

 カイトの腕の中に、ぎゅっと抱きしめられたいのに、もう一体何日ばっと突き放されただろう。

 こんなに冷たいマントの中に、いたいワケではないのに。

 彼は、忙しいし。

 それでも、1時間でも帰ってきてくれたりするし。

 嬉しかったり寂しかったり、1日ごとに一喜一憂。

 気持ちを全部翻訳するには、時間が足りていない。

 カイトとの時間が、あんまりに足りない。

 一緒にいるのに―― 触れ合えない。

 そんなのは。

 シャワーを止めて立ち上がったメイの髪から、しとしとと水滴が落ちていく。

 前髪なのか横の髪なのか分からないが、カーテンになって、ずっしりと重く目の前にかぶさる。

 そんなのは、イヤ。

 私だって。

 髪に触れる。

 その左手。

 私だって。

 指輪が。

 もうはずせない指輪。

 傷だらけにしてしまうかもしれないのに、絶対になくしたくないから、絶対に彼にはめてもらったことを忘れたくないから。

 たとえ、傷だらけになっても、絶対にはずせない指輪。
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