冬うらら2

 しとしと、と。

 したたる髪を後ろにひっぱる。

 背中に、冷たい水滴が落ちる。

 私だって、カイトに。

 決死の覚悟で。

 バスルームを、出た。


   ※


 バスルームの外に出ると、カイトの姿はなかった。

 どうやら、もうベッドの中のようだ。

 はぁ。

 せっかく決死の覚悟を固めてみても、彼がもう深い眠りのフチであったら、結局一人空回りだ。

 でも、もしかしたら。

「カイト…もう寝ちゃった?」

 不安の一言。

 眠った人間は、きっと返事なんかしないだろう。

「起きてる…」

 しかし、ベッドの中からは、寂しさを追い出してくれる声が聞こえてきた。

 ホッとする。

 よかった、完全に避けられているワケではないのだ。

 微妙で、分かりにくいカイトの気持ちを、メイは一生懸命探ろうとした。

「明日は…お仕事?」

 もう一歩進んでみる―― 足も、唇も。

「休みだ」

 短いけれども、跳ね返ってくる感触。

 一応、明日には一緒に出かける予定があった。

 式場関係の打ち合わせ。

 本当は、カイトにはそんなヒマはないだろうし、きっと苦手なことに違いない。

 でも、いまの『休みだ』の中には、ちゃんと一緒に出かけてくれるという意味が含まれているのだ。
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