冬うらら2

 神様!

 たった一つ、ボタンをはずした。

 微かな抵抗もなく、するりと輪をくぐるプラスティック。

 震える指を、少し下に。

 次のプラスティック。

 そしてもう一つ。これで3つ。

 4つ目に指をかけた時、彼女は止まった。

 一瞬で熟睡したのでなければ、カイトはいま何が起きているか分かっているはずだ。

 しかし、ノーリアクションだった。

 一切、反応をしないのである。

 何で何も言ってくれないの?

 メイは、泣きそうな眉になっていた。

 神様…。

 一体、神様に何を求めているのか、呼ばれている方も大変だろう。

 何度も名前を繰り返されるのに、願い事は口にされないのだ。

 怖くて、彼女は口にも出来ないのである。

 ただ、その怖い考えの通りになりませんように、と。

 それが、願いなのである。

 もっと震える指で、残りのボタンをはずす。これが最後。

 カイトの胸だ。

 彼女を抱きしめる時、ぐっと触れあう胸。

 あたたかくて、強くて、彼女が好きなもの。

 メイは、その素肌の胸に―― ぎゅっと抱きついて、頬を寄せた。

 お願い……お願い!

 私を。

 ぎゅっと、抱きしめて。

 私を。

 愛して。

 それが、彼女の決死の思いだった。

 なのに。


「ダメだ!!!!」


 ばっと。

 いきなり、弾けたように動き出したカイトに、その身体を引き剥がされた。

 あ。


 神様。
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