冬うらら2

 ふわっ、でもいい。

 ふにょん、でもいい。

 擬音語なんかは、何だってよかった。

 そんなものは、いま重要なことではないのだ。

 一番重要なのは、その柔らかい感触が、カイトの身体にぎゅっと押しつけられているということである。

 メイと、激しく密着してしまっているのだ。

 カァッと、全身に血が巡った。

 ドクンッッ。

 イヤな鼓動を、一つ強く打った。

 全身が、総毛立った。

 この時のカイトは―― 他の何よりも速く動けた。


「ダメだ!!!!」


 バッと、彼女をひきはがす。

 口の中は、カラカラで。

 風呂上がりのパジャマの中は、汗や熱気、そして緊張と興奮でいっぱいだった。

 しかし、背筋にだけ一本、極寒のラインが走っている。

 まるで絶体絶命の、危機のまっただ中にいるかのようだった。

 暗くてよかった。

 いまのカイトの姿は、誰にも見せられない。

 ぎゅっとされるだけで、こんなにまで取り乱している自分の姿を見たら、きっと彼女に幻滅されるだろう。

 普通の男なら、意図はともかくとして、優しく抱き返すのだ。

 それさえ、出来ない。

 一度、自分に戒厳令を出しているのだ。

 彼女に関することは、何もかも『違反』であり、『禁止』であり、『破ったものは即刻死刑』なのである。

 それらの戒めを破らないように、極力家から一歩も出ないようにしていたにも関わらず、禁止が向こうからやってきて、ドアを開けて入ってこようとするのだ。

 慌てて外に追い出し、ドアに体重をかけて開けられないようにするしかなかった。

 そうでないと、絶対に死刑間違いナシなのだから。
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