冬うらら2

 けれど。

 ドアの外に―― 彼女がいる。

 カイトが、いま追い出したばかりのメイが。

 このままでは、誤解される。

 そういうひらめきが、頭の隅にあった。

 彼女からの抱擁を、カイトは拒んでしまったのだ。

 ドアの向こうとこっち側という隔たりが、余計に誤解を燃え立たせるだろう。

 喉が、熱い。

 ゴクリと、ほとんど唾も出ていないというのに、息を一つ飲み込んだ。

 喉は湿らず、温度を上げていくばかりだった。

「お…おめぇといると…ダメだ」

 だから。

 熱くて、苦しい声になった。

「おめぇに触れられると……我慢できねぇ。ひでぇこと、しちまう…メチャクチャにしちまう」

 泣き叫ばれても、止められないかもしれない。

 それが怖いのだ。

 メイを思う気持ちよりも、この男の生理が勝ってしまったら、カイトは一生自分を許せなくなるだろう。

「ただ…ぎゅっと抱きしめるだけじゃ…終われねぇ」

 カイトは。

 最後のカタマリを、喉から吐き出した。

 誤解なく彼女に伝えなければ、カイトは明日も明後日も針のむしろだ。

 今のカイトはもう、女性の生理の周期など頭になかった。

 戒厳令まっただ中で、それが永遠に続くいう被害妄想に取り憑かれていたのである。

「え…あの…カイト?」

 彼の言葉を、うまく理解できないような声。

 この声が、またカイトの背中を騒がせた。
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