冬うらら2

 彼女は、ドアの向こうから、いなくなってしまう。

 そんなのは。

 そんなのは、イ―――― !!!!

 ドン。

 小さな。

 小さな、何かぶつかる音。

 ぶつかる音は、一つだけでは音が生まれない。

 片方の音は、何が立てたかカイトは知っていた。

 自分の身体だ。

 もう一つは。

 音のもう一つの正体は。


「カイト…好き…好き」


 あれほど言ったのに。

 ぎゅうっと抱きしめてくる、メイの身体。

 精一杯の気持ちを込めた声が、カイトを逆撫でる。

 全身の血が、一気に騒ぎ立てる。

「バッ…!」

 人の話を、聞いていなかったのか。

 いま、カイトにそんなことをするのは、自殺行為以外の何者でも。

「もう、飽きられちゃったかと思った……触れてもらえなくて…寂しかった」

 泣きそうな声。

 嬉しさとかせつなさとか、いっぱいに織り込んだ吐息で、カイトにしがみついてくる。

 あ?

 エアポケットに放り込まれたカイトは、バカみたいにそんな言葉を一つ思った。

 寂しかった?

 触れてもらえなくて?

 それは?

 カイトは、抱きかえせないまま、瞬きをした。

 どういう意味だ?


 それは、彼だけが―― 随分前に戒厳令が解除されていたことを、知らなかったという意味だった。
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