冬うらら2
●54
 何だか。

 メイは、ふとしたはずみに触れてくるカイトの動きに、嬉しさと戸惑いを感じていた。

 いやらしい触れ方じゃない。

 彼女がそこにいるのだと、確認するかのような動き。

 それが、日常の中で時々起こる。

 逃げたり、しないのに。

 でも、触れられると胸があったかくなって幸せだった。

 言葉がなくても、カイトの気持ちが、こっちに向いているのが分かる。

 でも、彼女の気持ちが、ちゃんと彼に向いているということは、伝わってるのだろうか。

 それが、ちょっと心配だった。

 仕事中の彼をちらちら見ていると、時々目が合う。

 今日は、打ち合わせこそドタキャンしたものの、メイにも結婚式に関係する仕事がちゃんとあった。

 招待状の、宛名書きである。

 もう、式まで時間がないのだ。

 筆ペンも寿の切手も印刷物も、全部用意してある。

 何枚か緊張しながら書いては、ちらり。

 今回は、横顔だった。

 仕事をしている姿が好き。

 一緒にいる時の姿も好きだが、仕事をしている時はまた違うのだ。

 瞳の動きも、唇の動きも、顎の角度も―― 全部、見たことのない顔で。

 会社の人が、うらやましいな。

 鋼南電気の社員になってみたかった。

 もしくは、社員の話を聞いてみたかった。

 カイトのことを、どういう目で見ているのだろう。

 尊敬されているのだろうか。

 好かれているのか、それとも、ちょっと怖がられているのか。

 すごく興味があった。
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