冬うらら2

 ぱっと、その指先の方に視線を向けると。

 カイトの親指が、間近にあった。

 そこには。

 黒い、筋が。

 きゃー!!!!!

 メイは。

 自分の顔に墨をつけていたのである。

 筆ペンの墨であることは、間違いなかった。

 指を汚した後、そのまま顔を触ってしまったか、カイトに見とれて、うっかり頬に落書きをしてしまったか。

 さっきまで、カイトを見てどきどきしていた自分の顔が、一気にマヌケなものに思えた。

 彼にしてみれば、さぞや笑える顔だっただろう。

 まるで、羽子板で負けた時のようなビジュアルがちらつくせいで、恥ずかしさもひとしおだった。

「あっ、あ…」

 おそらく、墨はまだ自分の頬に残っているだろう。

 たかが指で拭われたくらいでは、完全に落ちるはずがないのだ。

 いつまでも、頬に入れ墨をしているワケにはいかない。

 おまけに、今の顔をカイトに見られるのは、もっと恥ずかしい。

 早く洗面所に逃げて、顔を洗ってこなければ。

 慌てる意識の中で、とにかくそれだけは分かったので、彼女は立ち上がった。

 口に出てくる言葉は、意味もないものだ。

 それが、更に恥ずかしさを煽る。

 とにかく。

 彼女は、カイトの視線から逃げ出そうとしたのだ。

 けれども―― 腕を捕まれる。

 また、頬に触れられる。

 反射的に首を竦めて目を閉じてしまったら。

 あっ。

 その感触が分かってしまった。

 カイトが、彼女の頬を舐めたのだ。

 おそらく、汚れた墨が残っているだろう部分を。
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