冬うらら2
☆56
 この家の玄関の前で、面白いものを拾っていた。

 ソウマは、ニヤニヤとカイトを小突いてはいたものの、その切り札をまだ使わずにいる。

 切り札は、一番効果的な時に使ってこそ、『切り札』というのだ。

 フトコロに、最高級のジョーカーを隠したまま、カイトが『結婚講座』に翻弄されるのを見ていた。

 結婚講座というのは、クリスチャンじゃない人間が、教会で結婚式を挙げるために受講しなければいけないものだ。

 神父様の、結婚にまつわるありがたいお話が聞ける、という寸法である。

 結婚への心得、というか。

 ソウマはその内容を、軽んじているワケではない。

 宗教を飛び越えて、素晴らしい話もたくさんちりばめられていた。

 が。

 カイト向きでは、ないということだ。

 あの男に、『どうやって結婚生活を幸福に続けていくか』ということを論じたところで、門前で突っぱねるのが分かっていたからだ。

 彼は、自分の手で自分なりにメイを幸せにすると、頑なに思っているようだった。

 その気持ちと行動は、最終的には神の教えに背くことではない。

 それどころか、見た感じ、誤解を受けやすい夫婦ではあるが、どこに出しても恥ずかしくない、『互いを慈しみ合う』夫婦になるだろう。

 どこの神様だって、喜んでくれる精神に違いなかった。

『んなの、分かってんだよ!』

 結婚講座の説教で、カイトが何度そう考えるか。

 それを想像すると、ソウマの目はランランと輝き、口元はニヤリとしてしまうのだった。

 ハルコが。

 ふと。

 あの当時は、余り考えたことがなかったが、ハルコが『結婚講座』を受けなければならないような、教会での挙式を望んだのは、どうしてだろうか。

 ソウマは、彼女の希望通りに、結婚式を挙げる必要があった。

 希望はかなえてやりたいという男心もきっちりあったが、それより前に、少々後ろ暗いところがあったのだ。
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