冬うらら2

 彼女の感情を、うまく理解することも出来ず、ソウマの方もイライラが積み重なる。

 帰国して、一度も会ってないのだ。

 もう何ヶ月、顔を見ていない算段になるだろうか。

 記憶の中の微笑みは覚えているが、それはきっともう本物ではない。

 本物のハルコが、見たかった。

 触れたかった。

 そして、ソウマも爆発した。

 白昼堂々、鋼南電気に殴り込んでしまったのである。

 そんな彼に、結婚講座を受講させたのは、ハルコの最後の反撃だったのかもしれない。

 神父の説教にあったのだ。

『楽しい時間を過ごしたいなら、楽しい相手を選べは良いのです。静かな時間を過ごしたいなら、静かな相手を選べば良いのです。波瀾万丈の時を過ごしたいなら、それに見合った相手を探すことです』

 ソウマは、どれも好きだった。

 楽しい時間も、静かな時間も、波瀾万丈な時間も。

 だから、その時に彼は決めたのだ。

 これまで、楽しい時間も静かな時間もハルコとは共有してきた。

 唯一、切り分けていた『波瀾万丈な時間』とやらも、これから彼女と共有しよう、と。

 山に登る時も、ジャングルに行く時も。

 彼女が、『もう行きたくないわ』というまで、連れて行こうと思った。

 今のところまだ行きたくないとは言わないが、彼女の身体を考えると不可能だ。

 結果的に、2人の世界から波瀾万丈な時間というものは、無事出産するまでは消え去ったかに見えていたのに。

「遅れちゃダメよ。ちゃんと神父様にご挨拶してね」

 まるで母親のように、甲斐甲斐しく2人に助言するハルコの姿ときたら、宝の埋まっている島を見つけた船長よりも、目を輝かせていた。

 さて。

 そろそろ潮時という感じになってきた。

 最初は、おとなしくぶすったれていたカイトの気配が、『出ていけモード』にシフトしつつあったのだ。

 じきに、キレて怒鳴り出しかねなかった。

 おなかの子供は、生まれるまで一体何度それを胎教にするだろうか。
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