冬うらら2

「さて、それじゃ失礼するか」

 ソウマは、立ち上がった。

 今日は、何もカイトをキレさせる必要はないのだ。

 それよりも、素晴らしい爆弾のスイッチを、ソウマが握っているのである。

「あら、そうね」

 ハルコも、この切り札の存在は知っている。

 多少、プライバシーの侵害にはなるのかもしれないが、じっくり2人でどうするか吟味してしまった。

 素直に行くなら、これはメイに渡すべきだった。

 が。

「あ、カイトにちょっと話があるから、玄関まで送ってもらっていいか?」

 彼らが帰ることに気づいて、ホッとしたカイトの隙間に、そんな針を刺した。

 少し真面目な雰囲気を匂わせれば、彼の性格上、ついて来ずにはいられないということを知っていたのだ。

 メイ1人だけを残して、彼らは部屋を出たのだった。

「話って?」

 階段を下りながら、短気なカイトが聞いてくる。

 早く戻りたいに違いなかった。

 それに苦笑しながら、最後の1段になってから、懐からジョーカーを取り出す。

「玄関に落ちてたぞ」

 後ろも振り返らずに、肩越しにそれを差し出した。

 受け取られる感触がして、ソウマは手を離す。

 その後、しばらくはカイトの足音はついてきた。

 歩調がだんだんゆっくりになり、夫婦との距離が離れていくのが分かる。

 きっと、いまそのジョーカーを見ているのだ。
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