冬うらら2
□59
 遅れて到着した二人が、教会の後ろの方の席に座った後、その『結婚講座』とやらは始まった。

 前の方には、すでに5、6組の結婚予定者らしき人間たちが座っている。

 彼らの後ろ頭をちらりと確認した後、ふぅっとカイトは息を吐いた。

 ようやく、一息つけた。

 横のメイを見ると、まるで大学生が絶対落とせない講義を聞くような、一生懸命で真剣な瞳を神父に注いでいる。

 一言一句、聞き漏らさないようにするつもりなのか。

 彼女の姿を見ると、あんまり自分一人やる気がなさそうな態度をしているのは、いけないことのように思えて、とりあえずは前の方を向いておく。

 しかし、頭の中には仕事のバグのことがへばりついていた。

 そう。

 出てくる直前に、デカイ虫が見つかってしまったのである。

 完全に、システムが止まってしまうようなバグで、発見したのは、あの応援のハナとかいう女だ。

『あ! 止まっちゃった!』

 いきなり放たれた大きな声に、開発室中が凍った。

 みんな、その言葉を一番恐れていたのだ。

 チーフも、スタッフも、挙げ句カイトも彼女を囲んで、何度も何度も、テストを繰り返す。

 しかし、一体どうしたらシステムが停止してしまうか、ということが分かるまでに時間がかかった。

 かなり複雑な行動をしないと起きないバグで、彼女も100%自分の行動を記憶していなかったのだ。

 ようやくバグの箇所に目星がつけられ、さあこれから原因究明だ、というところで、カイトは時計を見て毛を逆立てたのである。

 約束の時間に遅れること、間違いナシだったのだ。

 慌てて、上着だけひっつかんで、開発室を飛び出して家まで戻ったのである。

 2時間ほどの『結婚講座』の間に、片がつけばいいのだが―― いや、やはりカイトとしては、リアルタイムでその原因を突き詰めたかった。

 多分、あのアイテムのフラグか、会話のフラグか、どっちかだとは思うが。

 待てよ、そう言えば。

 心ここにあらずで、カイトは教会という神聖な場で、ずっと仕事のことを考えていた。
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