冬うらら2

 1時間くらい過ぎた頃か。

 スンッ。

 そんな音が聞こえて、はっと我に返る。

 まだ神父の説教は続いていて、諭すような言葉が、この教会の中に静かに落ち着いて反響している。

 それに、かすかに混じる湿った匂い。

 ふっと隣を見ると、メイがハンカチで目元を押さえていた。

 な、な!

 いきなり、泣き出すなんて思ってみなかったので、かなり彼は慌ててしまった。

 彼女を泣かせるような説教を、あの神父はしたのだろうか。

 見れば、前の方の席のカップルの中でも、泣いている女がいるようである。

 隣の男が、優しく肩を抱き寄せて、慰める様子が目に映った。

 その後ろ姿が、とても自然なカップルの姿に見える。

 クソッ。

 カイトは、ぐいっとメイの肩を引き寄せた。

 オレだって、と。

 オレだって、彼女を慰められる。

 どんな説教だったか聞いてもいなかったので、何で彼女が泣くのか理由は分からなかった。

 けれども、人間としての柔らかい部分に、触られるようなことを言われたのだけは、間違いない。

 さわんな!

 これは、ありがたい説教だ。

 それは分かっている。

 女は、涙もろい生き物なのだ。

 それも分かっている。

 けれども、こうも簡単に彼のすぐ真横で、泣かされることになるとは思ってもみなかった。

 泣くな。

 身体に力を入れたまま、ぐっとぎこちなく引き寄せていると、メイが頭を預けてくる。


 それが、この講座を受けて一番いいことだった。
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