冬うらら2

 物音は―― たてなかったのに。

 何かが、ふっと途切れた。

 カイトが、すっと息を吸ったのが分かったのだ。

 指先が、一度宙に上がって、そして一番大きなキーを叩いた。

 そして。

 ハッと、視線が動いた。

 瞬間的に、自分が彼の視界に入ったのが分かる。

「あっ…あの、お茶…」

 大丈夫。

 そんなに長い時間ではなかったので、まだコーヒーは冷めていないはずだ。

 同時に、少し残念だった。

 もう少し見ていたかったのだ。

 砂時計の砂が、全部落ちてしまうくらいの間だけの魔法。

 カイトは、コンピュータの前から立ち上がってしまった。

「声…かけろ」

 じっと見られていたということに気づいたのだろうか。

 彼が、不満そうな瞳で言った。

 でも、少しだけ頬の端が赤いような気がする。

 もしかしたら、照れているのかもしれない。

 そんな些細な変化に、気づくことができた自分が嬉しい。

 前よりも、もっとカイトのことを理解できたような気がするのだ。

 あの空気を壊したくなかった。

 なんてことは、彼には言えない。

 怒られてしまいそうだ。

 凛とした顔で仕事をしている姿―― カッコよかった。

 そんなことも、彼には言えない。

 彼女の視線が気になって、自宅で仕事をしてくれなくなってしまうかも。

 だから。

 大事に大事に、自分の中の『カイト・アルバム』の中にしまっておきたい。
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