冬うらら2

「だって、あの…ただのお墓参りだから、その…」

 わざわざカイトが心配して、付き合ってくれなくてもいいのだ。

 そんなつもりで、言ったのではない。

 それどころか、彼女の自己満足のための行動に、仕事のあるカイトを振り回すワケにはいかなかった。

 確かに、バスや電車だとちょっと時間はかかるし、荷物も多いけれども、一人で出来ないことではないのだ。

 それを、何とかカイトに分かってもらおうとした。

 しかし。

 先手を打たれた。

「オレはまだ……おめぇの親父に挨拶をしてねぇ」

 何故、そんなに悔しそうな声を出すのか。

 そらされた目にも、引き結ばれた口にも、ありありとその気持ちの色が表れていた。

 挨拶って。

 普通の人の結婚であれば、こうなる前に挨拶をするのが筋というものだろう。

 しかし、メイの結婚を反対したり賛成したりする人は、誰もいなかったのだ。

 だから、彼女は自分の意志だけで決意したのである。

 けれど。

 既にいない人であるにも関わらず、カイトはまるで生きている人のような扱いをしてくれた。

 彼女の父親に向かって、敬意のようなものが垣間見えて、胸にじわっと言葉がしみた。

 カイトは、言葉が苦手なタイプだが、たまに呟かれる言葉には、いろんな思いが凝縮してある。

 優しさとか不器用さとか、熱さとか愛しさとか。

 それを拾い集めるのが、メイは好きだった。

 昨日、彼は愛があることが、分かったと言ってくれた。

 きっと神父さまのお話が、カイトの胸にもしみたのだろう。

 それくらい、いいお話だった。

 気がついたら、ずっとカイトの肩にもたれていて、後で恥ずかしかったけど、嬉しかった。
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