冬うらら2

「お待たせ」

 そう言って、大急ぎで準備を済ませたメイは、実に様々なものを手に持ってきていた。

 ホウキだのバケツだの。

 最初から、この重装備で出かけるつもりだったのだろうか。

 ますます、一緒に行くと言ってよかったと、カイトは吐息をついた。


   ※


 車で、彼女の生まれた町へ行く。

 花の名前のついている町で、名前くらいは聞いたことがあった。

 しかし、カイトがそこを目的地として向かったことはない。

 側に走っている国道を、通り過ぎるばかりだった知らない場所。

 そこで、メイは生まれて育ったのだという。

「そこの道から入ったところが、私の家だったの…」

 町工場だの、八百屋だの。

 オートメーションやら、巨大スーパーとは、縁もゆかりもなさそうな町並みだった。

 しかし、カイトはその景色よりも、彼女の声に含まれる懐かしさの響きに引き込まれていた。

 道がそんなに広くないので、彼はゆっくりと車を走らせているのだが、その速度と声の響きがちょうどよかった。

「あっ!」

 そんなメイが、いきなり大きな声を上げて、助手席側の窓に張り付いた。

 何か、大事なものを見つけたかのような声に、思わずカイトはブレーキを踏んだ。

 キッと止まった車内から、彼女は大きな声を出した。

「お姉さん!」

 閉ざされたままの、窓の外に向かって。

 お姉さん??

 メイには、姉でもいたのだろうか。

 そうカイトが考えを及ぼすより早く、彼女は助手席のドアを開けた。
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