冬うらら2

 あっと、口を開けた時には、駆け出している身体。

 ま、待て!

 焦ったのはカイトだ。

 懐かしい過去とやらが、まるでいきなりメイを連れ去ってしまうのではないかという怖い気配が、彼の胸を掴んだのだ。

 この町には、彼女の記憶がどの場所にも落ちている。

 いわば、テリトリーだ。

 そこにカイトの匂いは、どこにもない。

 それが、彼を不安にさせたのだ。

 そんなことは、ねぇ!

 必死で振り払う。

 昨日も、その前も、彼女との気持ちはたくさん交わしてきた。

 まだその交信は、遠く離れた星と行っているように思える時があるが、だんだん確実に近づいているはずだ。

 それは、彼自身が体感してきた。

 ここで、遠くに離れてしまうはずがない。

 自分に言い聞かせながら、カイトも車を降りた。


「メイ!」


 自分以外の誰かが―― 彼女を、そう呼んだ。

 驚きと、しかし親しみを込めた呼び方をする人間が、カイト以外にもいるのだ。

 いや、それが当たり前なのだ。

 ばっと声の方に視線を投げると。


 なっ!


 彼は、目をひんむいた。

 メイが、誰かと抱き合っていたのだ。

 すごく背の高い。

 ぎゅうっと心臓がつぶれそうになって、身体中にイヤな汗が吹き出した。
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