冬うらら2

「リンお姉さん!」

 しかし、幸いなことに相手は女だった。

 魚屋の店の目の前で―― サバだのアジだのが、身を投げ出しているすぐ側での出来事だった。

「どこへ行ってたんだい? 心配してたんだよ! ああもう、ちゃんと顔を見せて…」

 でかい女は、まるで子供にそうするかのように膝を折って、彼女をじっと見つめる。

「金貸しに連れて行かれたって聞いた時は、心臓が縮んだよ…あんたとはもう、二度と会えないんじゃないかと思って」

「ごめんなさい、全然連絡もしないで」

「いいんだよ、そんなことは…あんたが元気そうにしててくれればそれで……あん?」

 割って入れない雰囲気が、できあがっていた。

 カイトは、口も気持ちも割り込ませることができずに、呆然としたまま二人を見ていたのだが、リンとかいうデカイ女の視線が、いきなり彼の方を向いた。

「あんたが金貸しかい? この子にどんなひどいことをしたんだい!」

 が。

 いきなり怒りの形相になって、リンは彼の方に詰め寄ろうとした。

 デカイというのは、一歩二歩近づいてこられるだけで、かなりの迫力である。

 その上、赤っぽい髪なので、よけい激しい性格に感じられた。

 しかし、カイトは怖がったりしなかった―― それよりも、明らかに誤解した言葉の内容に、ますます唖然としてしまうのだ。

「お、お姉さん! お姉さん、違うの! 違うんだったら!」

 巨体を引き留めようと、メイが彼女の腕にすがりついて止める。

「何だって?」

 いちいち、動きがパワフルな女である。

 キッと、引き留めるメイの方に首を回した。

「か、彼は…その…えっと…あの……私の…」

 カアッと真っ赤になりながら、彼女はしどろもどろになる。

 リンは、最初にそんな様子のメイを見た。

 それから、視線をカイトの方に向けるので、憮然とした顔のまま、その視線を受け流す。

 そして、もう一度彼女の方を見る。
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