冬うらら2

 ただ曖昧に笑って、彼にコーヒーのマグカップを渡す。

 何でもできそうな長い指が、すっとその青いカップを持って。

 ちっちゃくて不器用な自分の手で、白いマグカップを持つ。

 向かい合わせに座って。

 そう思うだけで、顔がニコニコになってしまいそうなのを、ぐっと我慢する。

 慌てて、紅茶に口をつけた。

 ちょうどいい温度の紅茶―― さっき、きっとカイトを見ている間に、魔法の薬でも入れられたみたいに、すごくおいしい。

 カイトのコーヒーにも、魔法がかかっていればいいのに。

 すごくおいしいと感じてもらえたら、きっと彼女にまたコーヒーをいれて欲しいと思ってくれるだろう。

 そんな、ささやかなことでも、彼にとって必要とされたかった。

 別に。

 やっぱり。

 何も話す言葉はない。

 でもメイは、カイトに向けて全神経を開いていた。

 彼が洩らす吐息の一つさえ、敏感に感じるくらい。

 静かだけれども、幸せな瞬間。


 ピンポーン


 そんな空気を―― チャイムが破った。

 誰か、お客が来た証拠だった。

 同時に、二人の間の空気も崩れる。
< 30 / 633 >

この作品をシェア

pagetop