冬うらら2

 なかなか二人を離してくれなかった住民も、彼らの目的が墓参りであると知るや、快く見送ってくれた。

 花屋は、わざわざ供える花まで持ってきてくれる始末だ。

 本当はすでに、途中の花屋で買っていたのだが、いくらあってもいいだろうと、どうしても引っ込めようとしなかった。

 おかげで、車内は花の匂いだらけだ。

 菊の、苦い緑の匂い。

「お父さんね、全然お酒飲まない人で、私はてっきりお酒が嫌いなんだと思ってたの」

 車を降りて、墓地の方に向かう。

 荷物は、全部カイトが持とうとしたが、花だけは彼女に預けた。

 自分が持っているよりも、そっちの方がいいと思ったのだ。

 二つの花束を抱えたメイは、不揃いの石の上を注意して歩いている。

 そして、唇からは父親のこと。

 黙って聞きながら、カイトは歩いた。

「でもね、リンお姉さんとか近所のおじさんとかの言うことには、お父さんってすごいお酒好きな人だったんだって。前は工場も羽振りがよかったから、毎晩みたいに居酒屋で飲んでて」

 彼女は、少しあてどない感じでしゃべる。

 どうしても、カイトに聞かせなければならない話ではないような口振りで、でもぽろぽろと言葉を落としていく。

「けど…お母さんが死んでから、お酒をやめたんだって…大人になって、『何で?』って聞いたら、『酔って帰っても、もう靴下を脱がせてくれる人はいないからな』だって」

 メイは、ちょっと笑った後、言葉と足を止めた。

 一つのお墓の前だった。

 供えられていた花は枯れ落ち、石が汚れている。

 彼女は、慌てた動きで掃除をし始めた。

 カイトは、余り役には立たない。

 何かしようと思っている間に、彼女がテキパキと動いてしまうからだ。

 ただ、墓石を冷たい水できれいに拭き上げようとした時は、その雑巾を奪い取った。

 奪い返そうとする彼女を押しのけて、ぐいぐいと拭っていく。

 ありがとうと言われたが、拭くので忙しいフリをして聞こえないことにした。
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